第2週 プロデューサー 下里陽一 第1週
下里■ メガドライブ版 『神々の遺産』 は、10年前の作品ですがシステムはすでに完成されていたし、30万本近く売れた実績もある。いまだに根強いファンもおり、商品としてのバリューはあると感じていました。
ただし、現在のゲーム市場には派手なゲームが多いので、そのままベタ移植で発売するのはどうかなとも思っていたんです。とはいえ、あまりアレンジしすぎると、昔のファンを裏切るところがあるかもしれない。"シャイニング・プロジェクト" の第1弾ということで、ファンを裏切ることはできないですよね……。
そこで、ベースはメガドライブ版で、よいところは残して、アレンジできる部分はアレンジしていこうと決めたんです。例えば、シンプルで "とっつきやすい" システムはそのままに、アイテムのひとつ"カード"を使用できる新キャラを追加してより遊びに幅を持たせたり、新しい 『シャイニング・フォース』 をめざしました。
下里■ キャラクターやストーリーの追加、グラフィックの一新などひと目見てわかるようなものから、言わなければわからないような細かいところまで、本当にいっぱいあります。
開発がスタートして、まず最初に問題になったのが、主人公のマックスをしゃべらせるか、しゃべらせないか(笑)。"しゃべる" というのは、ボイスではなく、もちろんテキストでのことなんですが……。
今までの 『シャイニング』 シリーズは、"しゃべらせない" というポリシーがあったんですね。何があっても主人公は「……」 と無言だったんです。あとは 「はい」 と 「いいえ」 の選択肢で会話している形ですよね。
シナリオ担当の和智正喜さんと最初の打ち合わせをした時に、和智さんが 「今回はシナリオとメッセージを増やしたい」 と。しかし、「主人公がしゃべらなければ、話がふくらまないのでシナリオを書く側としては非常につらい」 というお話があったんです。
なるほどとは思ったんですが、主人公が "しゃべる" と今までの 『シャイニング』 シリーズで積み重ねてきたものが崩れてしまう……。
かなり考えさせられましたが、最終的には、"しゃべらせない" ということにこだわる必要はないだろう、と決断しました。物語がもっと面白くなるほうが大切だったんです。……ということで、今回のマックスはしゃべります。これもメガドライブ版とは、大きく違うところですよね(笑)。
▲マックスだけが使える強力な攻撃魔法 「サテライトノヴァ」。失われた記憶と関係がある……?
——そうですね(笑)。
下里■ ただ、この話にはまだ続きがあるんです(笑)。実は、メガドライブ版の最後には、マックスが 「リターン」 とひとことだけしゃべるんです。当時のユーザーには、逆にそのひとことが印象に残っているんですね。ずーっとしゃべらなかったマックスがラストのラストで 「リターン」 とだけ叫ぶのですから。 ……最初からマックスがしゃべっちゃうと、そのありがたみがなくなっちゃうじゃん。開発チームのなかでは、そんな意見もありました(笑)。
そこで今回はいろいろと仕掛けを施しています。実は、マックスが物語の後半で……。うーん、これ以降のことはまだ言えませんので、実際にプレイして確認してみてくださいね(笑)。
——マックスは 『神々の遺産』 で魔法は 「リターン」 しか使えませんでしたよね。今回、新しい魔法を使えるようになったと聞いたのですが……。
下里■ そうですね。マックスは、しゃべれるようになっただけでなく、「サテライトノヴァ」 という新しい魔法を使えるようになっています。開発陣と話している時に、「リターン」(※1) という魔法が使えるのに、他が使えないのはおかしいじゃん、ということになって(笑)。
強力な魔法を使いすぎると 「リターン」 も使えなくなってしまう、という戦略性も生まれるし、一個だけ魔法を入れようということになりました。それで 「サテライトノヴァ」 という強力な攻撃魔法を使えるようにしたんです。
……ちょっと話は逸れますが、実は 「リターン」 もなくそうかと議論したんですよ。リターンを使うと、戦闘の緊張感がなくなる部分があるでしょう。やられそうになったら、いつでも「リターン」を唱えて本陣に戻ることができる。でも、そういういい意味での "ぬるさ" も 『シャイニング・フォース 』の良さだと思うんです。だから、「リターン」 は残しました。
※1:リターン……戦闘を放棄して近くの町に撤退する魔法。主人公だけが使える。