名作アルバムVol.3:フリッキー


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■『フリッキー』のデザイン

―― はじめにフリッキーをデザインしたら、ゲームデザインは変わっていきましたか?

川崎■そうですね。画面構成は電線のように横に線を引いて、いわゆる迷路の壁になる部分を作ったんです。でも、実際にフリッキーというキャラクターができあがったら、どうも世界が電線じゃつまらなくなってきたんです。そんな時、開発のあったビル(本社向かいの別館ビル)の3階の窓から向かいのマンションを見たんですね。そしたら平面上で横にスクロールするんだったら電線ではなく、舞台はマンションでもいいんじゃないかなって、ひらめいたんです。

―― なるほど。今ある形の背景になっていくわけですね。

川崎■うん。だから通路に置いてあるのは、家庭で使われる哺乳ビンとかカップなんです。

―― マンションだから、日常で使うようなものばかりなんですね(笑)。

川崎■ドットもはじめは本当にただの“点”だったんですよ。ドットを取ったら消えていたんです。でも、ドットは消えずに連なってると面白い、って思って、フリッキーの後をぞろぞろぞろぞろ“ドット(点)”が連なっていく形にしました。
 こうやって作りながら、どんどんどんどん肉付けしていったんですね。
 でも同じ“点”だったら、8×8ドットでキャラを作らせてくれって言ったんです。
……しかし、そうは言ったものの8×8じゃ、何にもできない。いろいろ考えて、ヒヨコだったらできそうだぞ、と(笑)。


―― ただの“点”からヒヨコが生まれたわけですね。

川崎■じゃ、ヒヨコをくっつけて、ぞろぞろ連れていこう。ということになった。

―― 『フリッキー』の完成形に近づいてきましたね。

ゲーム画面

▲この画面構成は川崎さんのひらめきから生まれたもの。
ラベルイラスト

SG版カセットのラベルイラスト。
 これはアメリカ向けのイラストで川崎さんが描いたものではありません。「US向けのキャラはどうしてもこうなっちゃう」

川崎■ところが、やってみたら簡単にヒヨコをみんな連れ帰ってしまう。それじゃ猫がぶつかったらヒヨコが散らばった方が面白いぞ、と。
 でも、その場で散らばっても簡単にすぐに集めることができるので、勝手気ままにどっか行っちゃう奴も作ろうということになった。
 こんなふうに、難易度をつけながら、どんどんアイディアが出て膨らんでいく。


―― うんうん。

川崎■じゃ、どうやって普通のヒヨコとその勝手気ままなヒヨコを分けようかということになり、不良のヒヨコを作ることにしたんです。勝手気ままにどっか行っちゃうやつはサングラスをかけさせて不良のヒヨコということにした(笑)。これなら見た目ですぐわかる。といっても2ドットか3ドット、ちょろっと黒にしただけなんですけどね。

―― アーケード版ではそれがきちんとサングラスに見えるんですよねぇ。

川崎■うん。

―― でも、SG版では不良のヒヨコは全身が真っ黒(笑)。

川崎■SG版には関わっていないんだけど、あれはスプライトの都合だろうね。

―― 当時の苦労話は良く聞くんですが、ドット絵は描きやすい環境でしたか?

フリッキーとピヨピヨ

▲アーケード版(上)とSG版(下)のフリッキーとピヨピヨ。SG版の不良のピヨピヨは全身が真っ黒。
川崎■当時のグラフィックツールは、テレビおえかき(*1)と同程度くらいのもので、ひとつのドットを打とうとすると、いっぺんに3つか4つくらいドットが出てくるようなシロモノでした。

―― サングラスを描くのも一苦労ですね(笑)。ちなみに『フリッキー』の開発期間って、どのくらいだったんですか?

川崎■開発期間は1年くらいでした。ロケテストが近づいてきた時には面数は100面くらいあるけど、もう容量は残ってないし、背景もほとんど作ってなかった。これじゃ見栄え悪いよって思って、背景自体は4パターンくらいしか作ってなかったんだけどカラーチェンジだけで全ての面を違う世界のものにしたんです。面が進む毎に、どんどん背景が変わっていって最後は宇宙くらいまで行っちゃう。
 いかに少ない労力でよく見せるかという工夫が得意だったので「サボリの川崎」と呼ばれていました(笑)。

*1)テレビおえかき

タブレットの表面を専用ペンでなぞることにより、テレビモニター上に、簡単な絵を描くことができた。MK3用。1985年発売。


テレビおえかき
―― 壁の絵も色んな絵があるじゃないですか。象とか機関車とか。あれも川崎さんですよね?

川崎■はい。壁の絵も、全部やりました。

―― それからボーナスステージのデザインが、かっこいいですよね、とくにシーソーが!

川崎■ボーナスステージでは私はキャラとシーソーは作りましたが、あれは企画担当者の世界で、元々は全画面があんな感じだったんです。

―― ロケテストの結果から、なにか大きな変更はありましたか?

川崎■はい。ロケテストをやったあとに、窓から顔を出して火を吹く怪獣とチョロというキャラクターを追加しました。もうこれ以上のキャラは入らないと言ってたのに、プログラマーが、フリッキーがじっとしていると「ヤラレナイ」というのが分かって、追加になったんです。
 ちなみにチョロは虫ではなくトカゲです。でも、替えたいんですよね。


―― どうしてですか?

川崎■あれは手抜きしすぎなので(笑)。
 動きのパターンも2つしかなく、仕方なくあんなキャラクターにしたんです。


―― なるほど(笑)。では、川崎さんのお気に入りのキャラはなんですか?

川崎■フリッキーも好きですが、小さくチョコチョコ動き回るヒヨコが好きですね。
壁の絵

▲「面が進むと女の人が風呂上りにバスタオルを巻いている絵があるんですが、体格がよすぎるって、どうにも不評でね……(笑)」

ゲーム画面

▲「ボーナスステージはフリッキーが慣性ですべるから、おもしろいんです」

■川崎さん直筆のフリッキー

川崎さんに何も見ないでフリッキーを描いてもらいました。
「フリッキーを描くのは10年ぶりくらいかな?」
「あっ、ひどいなぁ(笑)」
「え、使うのこれ、ほんとにー!」
「だったらもうちょっと丁寧に書けば良かったな」
直筆のフリッキー

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