第2週 手塚プロダクション 清水義裕 第1週
——まず最初に、『どろろ』 という漫画が、どのような作品なのか教えていただけますか?
清水■ 1967年に 『週刊少年サンデー』(小学館) で連載を始めて、約1年くらいで未完のまま終了しています。その後、TVアニメの時期と合わせ 『冒険王』(秋田書店) にも短期連載をした作品です。
タイトルは 『どろろ』 なんだけど主人公は百鬼丸という、魔神に体の48ヶ所を奪われた人間が主人公。父親が自分の権力のために、生まれてくる子供の体を魔神に捧げたんですね。内容的には、その百鬼丸が成長して "どろろ" という子供と出会い、いっしょに魔神を倒し体を取り戻す旅を続ける、といった物語になります。
1967年というのは、世の中が70年安保に向かって殺伐としていた時代でね、漫画の世界でも白土三平先生をはじめとした劇画ブームが起こってくる。手塚先生も、やはりそういった殺伐とした雰囲気の影響を受け出した時の作品になります。
——百鬼丸が主人公なのに、どうして 『どろろ』 というタイトルなのでしょうか。
清水■ 理由のひとつとして時代背景が大きいのではないかと思います。戦争でアメリカに負けて日本が対米従属という路線を走り出した時、「失ったものを取り返せ」 とか、そういう気持ちがどこか作品の中にも、世の中の風潮に合う形で現れたのではないかと思うんです。…… 『どろろ』 というタイトルの意味するものは 「泥棒」 なんですね。
また、物語の軸は 「奪われた体を取り戻す」 という部分なんだけど、『どろろ』 の本当のテーマは、「奪われなかった心」 なんじゃないかなと思うんです。「取り戻そうと思っているもの (体) が、本当に自分にとって大事なものなのかよーく考えて! もっと大切なもの (心) があるんじゃない?」 と、手塚先生がそう問いかけているように僕には思えるんです。
だから、主人公は百鬼丸かもしれないけど、テーマを考えてみると 『どろろ』 というタイトルは間違ってないと思いますね。
——漫画の 『どろろ』 は未完で終わってしまいましたが、それには理由があるんでしょうか?
清水■ 「奪われた体を取り戻す」 ……取られたものを取り戻そうとした時、それは本当に取り戻すことができるのか? できないでしょうね。元には戻らない。……この作品に関しては、ハッピーエンドで終わらせることにはならないと思うな、僕は。手塚先生も、そういった結末を描けなかったんだろうな……。
——ゲームの 『どろろ』 では、物語を完結させていますよね。
清水■ そうですね。やっぱり終わっていない物語だから、誰かが 「終わらせたい」 っていうのが当たり前だと思うよ(笑)。
——このように、手塚先生の作品に新しい解釈を加えていくことに関しては、どう思ってらっしゃいますか?
清水■ ウチ (手塚プロダクション) の基本的なライセンスの姿勢というのが、アボカドとカリフォルニアロールを許すというやり方なんです。
つまり、江戸前で獲れたネタしか使わず、飯炊きを3年やって握りを8年やらなければ 「寿司」 だと認められないということになれば、寿司は決して世界には広がらなかったでしょう。アボカドを認め、カリフォルニアロールを許し、アメリカ人が食べやすいテイストにしたので寿司は世界に広がっていったんです。
そういう意味でゲームというメディアで、より多くの人に 『どろろ』 を楽しんでもらうために、物語を完結させることは「あり」だと思います。ゲームが面白かったので、原作はどうなってるのかなと興味を持ってくれる人がひとりでも増えれば、ウチとしても嬉しいことなんです。
——デザインに関しても、沙村広明氏 (キャラクターデザイン)、前田真宏氏 (魔神・妖怪デザイン)、雨宮慶太氏 (美術設定) が新しい 『どろろ』 を生み出していますね。
清水■ 手塚キャラを先生以外の他のクリエイターが描くことも、多くの人に楽しんでもらうためには、やはり 「あり」 だと思います。僕は沙村先生が描いた非常にクールな百鬼丸を見た時、現代の人にアピールするには沙村先生のタッチやデザインは、すごくいいんじゃないかと思ったんです。だから、特別な注文をする必要もなく、自由にやってくださいとだけ言いました。
前田先生の描いた48匹+αは、どれもがすごい発想力とデザイン力からできていて、すべて期待以上のものが仕上がってきました。今度、ウチのアニメで使いたいくらいです(笑)。
——今、この平成の時代に甦った 『どろろ』 を手塚先生がご覧になったら、いったい何とおっしゃるでしょうね?
清水■ うーん、何て言うんだろう……。でも、我々がやることはほめてくれないでしょうね(笑)。手塚先生は、全部自分でやらなければ気がすまない方だから……。自分でシナリオを書いて、ビジュアルデザインもつくって、コンピューターのノウハウも勉強して、「そこはこんな動きじゃ駄目だ、こう動かせ。もっと血は派手に飛ぶんだ!」 なんてことを言ってるかもしれないですね(笑)。
とにかく好奇心旺盛な方で、必ず何かしらこの企画に関与したと思います。そうすると、ディレクターの今枝さんもおっしゃっていましたが、あと2年くらい開発が伸びていたかもしれませんね(笑)。 ▲
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