インタビュー・長谷川亮一

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おいしそうなタコ

─  長谷川さんの考える『エコー』の面白さってどこですか?

■  まず、当時としてはズバ抜けたグラフィックのクオリティですね。RGBでやってもスゴイけど、普通のコンポジットでやっても、その滲み具合がきれい!

当時のグラフィッカーは、確か水色とピンクだったかな? のドットを市松模様に打って、テレビで滲むとそれが肌色になる、などというテクニックを駆使しながら美しいグラフィックをつくりあげていたんです。でも『エコー』のグラフィックはズバ抜けてましたよね。

最初の方に大ダコが出てくるじゃないですか。あれを見て、ノボトレード(novotrade)に称賛のFAXを送ったんです。「このタコのグラフィックは今まで見たゲームの中で一番すごい! どれくらいすごいかと言うと、日本人のオレが見て、おいしそうだと思う!」って。

すると彼らからすぐにFAXが返ってきました。「それは我々がこのゲームで得た賛辞のなかで最上級のものだ!」(笑)
大ダコ

当時はメール、インターネットなどの環境はないので、開発会社とのやり取りはすべてFAXか国際電話。『エコー』のローカライズが終了するまで、長谷川さんは開発チーム(novotrade社)と顔を合わせることはなかったという。
─  確かに素晴らしいグラフィックでした(笑)

■  それともうひとつがエコーのアクションです。

広い海の中でスイスイ泳いでいるだけで面白い。最初の海で、小魚を食べたり、イルカショーみたいに海面で尻尾だけで立ち泳ぎしたり、ジャンプの飛距離を伸ばそうとしているだけでも充分楽しいですよね。

キャラクターアクションゲームの根本だと思いますが、操作しているだけで楽しいというのはやっぱりこのゲームのキモのひとつだと思います。自分の思ったとおりにイルカを動かせた時の気持ちよさは格別です。

─  かなりぶっ飛んだストーリーも面白かったですね。

■  アメリカでは『エコー』にストーリー性は求められていなくて、純粋にグラフィックとアクションだけがクローズアップされていました。だから面白ければシチュエーションは何でもありだったんです。たとえイルカが宇宙へ行こうとも(笑)
イルカを動かしているだけで楽しい
■  だから、テキストもすごくぶっきらぼうなんですね。「北の海にいるクジラに会え」「シャチは危険だ」とか(笑)

英語版ではテキストが2行くらいしかなくて、ヒントが抽象的だったり、説明不足だったり。

……私は機械的な翻訳は嫌だったので、無機質にならないように、血の通ってる翻訳がしたいと常々思っていました。だから、ただの翻訳だけでなく、プラスアルファとしてストーリーを語ったり、ルールの説明をしたり、かなりの情報を詰め込んだつもりです。

単純ですが、巨大なクジラの台詞は、海の賢者っぽく「〜じゃよ」としゃべらせて、英語版よりもキャラクター性を持たせたり。日本語化するにあたって台詞は7行まで表示されるようにプログラムし直してもらいました。
クジラ「ビッグ・ブルー」の台詞

クジラ「ビッグ・ブルー」の台詞

─  長谷川さんのお気に入りの台詞って、ありますか?

■  「体力を回復するにはエサを食え」というセリフを「こざかなは おいしい」と訳したのは、我ながら傑作だと思います(笑)


─  そういえば『エコー』は、どこかの自然保護団体から表彰されていましたよね?


■  英国王立海洋生物保護団体です。

『エコー』は、本当は小魚をバンバン食べちゃうし、サメと戦うし、最後は宇宙に行っちゃうようなゲームなんですが、企画のメインをやっていたエドというヤツがあえて英国王立海洋生物保護団体にネガティブプロモーションのつもりで送ったんですね。

「こんなひどいゲームは見たことない!」とか言われて、逆に話題になると思ったんでしょうね(笑)

ところが、彼らはグラフィックと最初の方の会話だけを見て「嵐にさらわれた仲間を、パズルを解いて助けに行くピースフルなゲーム」だと思ったみたいなんです。まぁ間違いではないんですが(笑)

「素晴らしいゲームじゃないですか!」って……。

そんな経緯があって本物の推薦状を送ってくれたんです。
限定生産パッケージ

長谷川さん所有、ヨーロッパで発売された限定生産パッケージ。Tシャツ、カセットテープ(U2やERASUREも参加)、さらには英国王立海洋生物保護団体からの推薦状が付いていた。(画像クリックで拡大)

─  難易度についてなんですが、具体的にはどのような調整を行ったんでしょうか。


■  作業量の関係でマップごと描き換えるようなことはできなかったんですが、ダメージ値を変更したり、敵の数を減らしたり、空気を補給できるポイントを増やしたりしています。

例えば、サメがウヨウヨいる海を、サメを倒したり避けたりしながら進むステージがあるんですが、そこはサメの数をオリジナルの2/3に減らしてもらっています。

ダメージに関しては、色々な調整をしているウチに、メインプログラマーのラズロウさん(国際数学オリンピックで優勝したこともある、非常に頭の良い人です)が、ダメージの計算式に日米欧別のパラメータを持たせてくれて、例えばアメリカ版で1だったダメージが日本版では自動的にその1/3になるように難易度調整をしやすくしてくれました。

日本版の『エコー』は海外版と台詞だけが違うわけじゃなくて、難易度もあちこちいじったんです。『エコー』は難しいと言われていますが、言い訳っぽくなってしまいますが、あれでも海外版に比べてかなりやさしくなっているんです。日本版の『エコー』なんか余裕でクリアできたぜ、いう方は、チャンスがあれば是非海外版もプレイしてほしいですね。
長谷川さん

当時は「ゲームを作る」ことと、「ローカライズ」をすることは、かなり違うことだったんです。
現在では「ローカライズ」と言えば、ゲームの企画段階から参加して、翻訳や音声吹き替えや難易度調整があり、そして最後の予算の締めまでを含めて、ですが、当時は全体の流れの中のほんの一部のパートでしかなかったんですね。今ほどローカライズという仕事が大きく語られることもありませんでした。



「ローカライズ」という仕事

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リプレイコミック「長谷川さんとエコー・ザ・ドルフィン」