インタビュー:長谷川勝弘(ディレクター)

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企画がクリアーできないゲームを、世に出すのか!


─  そういった“目移植”をしていくなかで、どうしても移植不可能な要素ってありますよね?

■  そうですね。当時はハードの性能自体がかけ離れていたから、アーケードからコンシューマーへの移植をするためには、どうしてもスペックダウン(仕様を落とす)しなければならなかったんです。

─  何を残して、何を削ぎ落とすのか、そこを見極めるのが難しい作業になりそうですね。

■  うん。でも、移植の際のそういった取捨選択は、企画の人間に任されていたので、自分の好きな部分を残して作ることができたんです。

─  では、長谷川さんが面白いと思って、どうしても残したい要素って何でしたか?

■  このゲームの“操作方法の面白さ”の部分です。でも、あの操作方法(ボタン付きジョイスティック+トラックボール)を1個のパッドで再現しなきゃいけないでしょ。「じゃ、実際にどう再現するか」ということで悩みました。

自機と照準の両方を動かすのは大変だから、自機は固定して照準だけ動かそうとも考えましたし、はじめから2個のコントローラーを使ってプレイすることも考えていたし、その場合ボタンはオートにして常に弾が出っぱなしのままやったらどうだろう、とか本当にいろいろ考えました。

具体的にはこんな感じかなぁ。

長谷川さん

「移植とは言うものの、名前だけ同じでオリジナルのコンシューマーゲームを作っている感じでした。」

■  コントローラーを縦にして2コ並べて遊ぶ。片方が自機で、もう片方で照準を動かす。(ショットはオート)

■  両方(自機・照準)動き、照準の移動の方が速度が速い。(最近のタイトルで例えると『パンツァードラグーン』タイプ・ショットはオート)

■  両方(自機・照準)動き、ボタンを押したときだけ照準の移動が速くなる。


■  結局は、一度に両方を動かすのは無理だろうってことで、「ボタンを押しながらだと自機が動いて、ボタンを離しているとカーソルが動く」という現在の操作方法(参照:『SDI』の遊び方)になったんですね。そうすれば両方を見ることができるので、わかりやすいし。

─  1個のコントローラーでよく再現できたと評価も高かったですよね。あの操作方法で遊びやすいように敵キャラクターの配置なども練り直されたんじゃないですか?

■  そうですね。出現する量も違うし、出現位置も違う。もちろん敵の動きもアーケードとまったく違うわけです。スプライトの問題で敵が同じラインに4体以上出現しないようにしたりね。

……でも色々と工夫したけど、結果としては敵の攻撃の当たらない安全地帯に自機を置いといて、照準だけ動かして遊ぶゲームになってしまった。

─  アーケードとは別のゲーム性のものになってしまったということですか?

長谷川さん

「操作方法についてはいろいろ考えました。」
■  ……うん。難易度を設定する課程で、敵の弾の速さとか、ミサイルの動く速さを調節をするんですが、けっこう安全地帯があったんです。でも、これは意図的に作ったわけではなくて、たまたまできたものなんですね。フォローしきれなかった……。やっぱり弾をたくさん出せないし、スピードもゆっくりだから。だから安全地帯は1ヵ所だけじゃなく、けっこうあるんですよね(笑)。そういうところに自機を置いて、あとは照準だけ動かしてオールパーフェクト! みたいな遊び方ね(笑)。ま、これはまた別のものとしていいと思うんだけど。

─  それでも難易度は高いと思うんですが、裏技で“無敵コマンド”は入れようと思わなかったんですか?
当時は流行っていたじゃないですか、無敵コマンドとか面セレクトとか。


■  無敵が入ってないのは、無敵が嫌いなので。

無敵があるとチェックにならないんですよ。デバッグにはなるかもしれないけど、ゲームのチェックにはならない。だから無敵は入れない。企画がクリアーできないゲームを、世に出すのか! なんてね(笑)。

僕のゲームの作り方としては、常にゲームを遊ぶ側の視点で作るのがポリシーなんです。今でも。

長谷川さん

「僕は難易度の高いゲームの方がやりごたえがあるので好きです。例えば僕の大のお気に入りのゲーム『ロックマン(ファミリーコンピュータ:1987年、株式会社カプコンより発売)』は、“ロックマン”のまま無傷でクリアーするのが大好き。そういう自分への縛りを作ってプレイするのがいいんだよね。」


“目移植”で作られた『SDI』

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リプレイコミック「長谷川さんとSDI」